音楽へのパッションを越えて -Tribute for Claudio Abbado-

2014-01-20-abbado

またひとり、大切なメンターがこの世を去ってしまった。
長年ベルリンフィルの指揮者を務めた、クラウディオ・アバドだ。先日1月20日にイタリアの自宅で息を引き取ったそうだ。80歳。

両親が、クラシックを好んで聞いていたこともあって、ほんとうに小さいときから音楽は身近な存在だったし、そのためか音楽を聴くこと、歌を歌うことは大好きだった。今でこそ死蔵状態になってしまったが、両親の集めたクラシックレコードが今でも大量に保存されている。はじめはやはりテンポのよい明るい曲ばかり聴いているけれども、段々壮大な曲や緩やかな曲を好んで聴くようになっていたのは記憶がある。それが何という曲だったのか今では記憶がないのだが。

2014-01-20-peter_and_wolf初めて、特定の演奏家、特定の指揮者という組合せをはっきり認識したのは、おそらく10才の頃。自宅にCDプレーヤーが来て、初めて聴いた曲のひとつが、アバド指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団演奏、坂東玉三郎朗読の「ピーターと狼」。1989年にアバドが来日した際に録音したもので、世界各国でそれぞれの国のことばのナレーションで発売されものだ。それこそ、CDでなかったら完全にすり切れるくらい何度も何度も聞いたことをよく覚えている。

 
2014-01-22-1996suntory時は飛ぶが、1996年にサントリーホールで開かれた演奏会の記憶は一生忘れないものになっている。10月16日。高校3年生の期末テスト目前(前日だったと思う)に開かれた演奏会で、当時アバドはベルリンフィルの芸術監督(簡単に言うと常任指揮者)を務めていたが、後から考えると10年間の黄金期の最もすばらしいタイミングで聞くことができたのだ。アバド指揮、ベルリンフィル演奏のベートーベン第九「合唱」。試験なんて何のその。自宅にあったカラヤンの第九演奏を何度も聞いて予習していった。この演奏会は、アバドの計らいで高校生に限定し、S席にたったの5,000円で聞けるという特別なものだったこともあり、なんと前から三列目。ほんとうにアバドの息遣いが手に取るように分かる距離、そして汗すら飛んできそうな迫力に圧倒されたのをよく覚えている。

結局直接会ったのはその時が最初で最後となってしまった。昨年10月に予定されていたコンサートもアバドの体調を理由にキャンセルとなってしまった。予約はできたのだがほんとうに残念。体調がよくないと言う話しは聞いていたけれども、何事も後悔先に立たず。思い立ったときにやっておいても後悔するだろうから。

僕は、音楽が好きだしクラシックも好きだけれど、自分で演奏ができるわけでも評論が語れるわけでもない。しかし、アバドの指揮はそれは特別に甘美なものだった。指揮者の動きに使うことばではないけれども、とても力と魂のこもった振りをするけれども、描かれる動きは滑らかで繊細。演奏者はそれを見てほんとうに美しい音を奏でる。僕には信じられないのだが、タクトのふり方でほんとうに音が変わる。プロにいわせれば当たり前なのかもしれないけれど、本物のあまりの違いに驚くばかりだ。

アバドはベルリンフィルの音楽監督を退いた後から特に若者の教育に力を入れていたのをよく聞いていた。もちろん自身の後進者もさることながら、僕のような聴衆の側にいる若者であっても、例外なく。将来に向けて少しでも音楽の素晴らしさを伝えたかったのではないかと思う。高校生の時の経験はその一つだったのだと思う。

アバドは一家全てが世界トップレベルの音楽家。バイオリニストの父、ピアニストの姉妹などなど。本人もあらゆる楽器を演奏できるそうだ。 オーケストラという大勢の人々を束ねながら一つの作品を作り上げていく、会社の社長のような役目だけれども、クラシックの場合にはそれだけではない。今まで多くの指揮者たちがさんざん楽曲の解釈をおこなってきている、先例のあるものを自分のものとして世に送り出すという、世の社長よりもはるかに高い目標を長年実行してきたのだと思う。

だからこそクラシックは面白く奥が深い。そのことを自身の活動を通して僕に教えてくれた。そんな人が去ってしまった。でもきっと、アバドは僕にもっと違うことも教えてくれている気がしている。少し時間をおいてから、改めて考えてみたいと思う。

Despite his ill health, Abbado’s musical passion was in evidence until the very end, friends said. “Up until Thursday he was studying [a] Schumann symphony,” Massimo Biscardi of the Orchestra Mozart in Bologna told RaiNews24. “At 80 years old he was studying like he was 18.” (Claudio Abbado: ‘one of the greatest musicians of the past 50 years ‘ The Gardian)

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